藤間蘭黄  日本舞踊の世界

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景清3

景清は、廓に通う色男。
傘をさして登場するのは、初演の『閏茲姿八景(またここにすがたのはっけい)』という八変化が、「八景」(十世紀に選定された中国瀟湘八景が基となり、ある地域の優れた八つの風景を集めたものをいう。晴嵐、晩鐘、暮雪、夜雨など風景には決まりがある)になぞらえてあり、この『景清』は「滝詣(たきもうで)の夜雨」であるから。また、この傘は『助六』や『雨の五郎』など廓へ通う色男に共通する小道具でもある。
景清は、手練手管の傾城阿古屋に負けじと一杯ひっかけ、赤いところが平家だと(平家は赤旗、源氏は白旗)洒落ながらやってくる。
廓に着いて、馴染みの芸者や幇間にせがまれて、景清に源平合戦の話をする。
江戸の廓で平安の武将が繰り広げる荒唐無稽な「物語(ものがたり=戦の様子を実況中継のように踊る)」。
「〽まず一ノ谷の戦場は 前は海 後ろは険しきひよどりごえ」と言った後、
「〽江戸で申さば品川に似たりよったる色酒に」。
初演当時、品川は東海道第一の宿場遊里として非常に賑わったという。
その「品川」である。
平氏の官女たちをのせた船が海戦に漕ぎ出す様子は
「〽すわや時ぞと漕ぎ連れて 客ある方へとのり出せば」。
敵の源氏を客に見立てて、官女は「舟君」(=船で客を取る遊女)。
ここでは那須与一が扇の的を射ったという源平の合戦の故事もたった一文
「〽かくとみぎわに那須野がひらり」で語られる。
こうなれば主人公景清さえも「立君」(街娼)となって「モンシモンシ」と客(=源氏の勇将三保の谷)の袖ならぬ錣を引く。
このように廓話になぞらえて、勇将景清と三保の谷との二役を演じ分けながら、壇ノ浦の合戦のようすが披露されていく。
そこに恋人の阿古屋が現れる。
「〽心も空の上草履」。恋人がやってきても私のところに顔も出さずに他の部屋で、大声で戯言を言っている。阿古屋の心は上の空で、廊下を歩く上草履を引っかけるのもそこそこに景清がいる部屋の前までやってくる。入りあぐねて、障子を細く開け中へ合図を送ろうとするものの、閉められてしまう。意を決して入ろうとすると逆に障子がさっと開いて景清がやってくる。
ここから阿古屋が恋心を訴える「クドキ」となる。
花見戻りに大勢でやってきた中に「七兵衛」という面白い名前の侍(景清は悪七兵衛景清という通称)が。
阿古屋は朋友の遊女とそれを笑っていたが、いつの間にか「〽心が先へつい惚れて こっちに思えば そっち」も私を口説いて恋人となった。これも観音様の引き合わせ…
こうして心情を訴える阿古屋に対し、
景清は照れ臭いのか、はたまた「〽立たぬ口舌の し残しを」思い出したか、
突然声を張り上げて「そんなことは置いておけ!」。
挙句の果てに「〽どうでもしげさん粋じゃもの」とまで言う。
「しげさん」は歌舞伎『壇浦兜軍記』の阿古屋の琴責めに登場する。
行方不明の景清の居所を阿古屋が知っているに違いないと、源氏方の岩永左衛門が拷問をしようとする。それを畠山重忠が止めて、隠し事をしていれば、音色に狂いが現れるはず、と、琴、胡弓、三味線の三曲を演奏させる場面。その重忠がすなわち「重さん」。
ここで踊り手は、景清→一瞬の阿古屋→景清と目まぐるしく役を変えながら痴話喧嘩を表出させる。
そんな痴話げんかを芸者や幇間が納めて二人を閨へいざなう。
踊り手は幇間から果ては閨の屏風まで演じる。
『景清』はこのように剛柔自在に演じるというところが見せ所である。R
by rankoh-f | 2013-10-28 00:34